NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『赤い花』

Аленький цветочек
S. T. アクサーコフ Сергей Тимофеевич Аксаков (1791-1859)
(2020年6月号掲載)

『赤い花』
『赤い花』

 1858年に出版されたS. T. アクサーコフの『赤い花』は、現在のロシアでもとても人気があります。ディズニー映画でおなじみの『美女と野獣』にそっくりのストーリーですので、「あれ? このお話、知っている!」と感じる方も多いかも知れません。それはこんなお話です。

 3人の娘を持つ商人が旅に出ると、道に迷ってしまい、森の中の大きな城に行き当たります。ひと気のないその城で居心地よく過ごした商人は、庭にきれいな赤い花を見つけ、末娘から「世にも美しい赤い花」を土産に欲しいと言われたことを思い出し、その花を手折ります。すると、恐ろしく醜い怪物が現れ、「花を摘み取った罰として、3人の娘のうち誰か一人をよこせ」と要求します。商人は急いで家に戻り娘たちに怪物の要求を話した結果、末娘が城へ行くことになりました。末娘が城に着いてみると、怪物は我が身の醜さを恥じてしばらくは身を隠していましたが、末娘の心根の優しさを知ることで姿を現し親しくなっていきます。ある日、末娘は父親が病気になった夢を見ます。胸騒ぎがして里帰りを申し出ると、怪物は「三日三晩以内に戻らないなら恋しさのあまり死んでしまう」と言います。怪物に「必ずそれまでには帰ります」と言い里帰りをした末娘でしたが、妹の幸福そうな暮らしぶりを妬んだ二人の姉が時計をわざと遅らせて時刻通りに帰れないようにしてしまいます。そうとは知らぬ末娘が胸騒ぎを覚えながら城へ戻ると怪物はすでに息絶えていました。しかし末娘が嘆き悲しんでいると、怪物は美しい王子の姿になって甦ります。王子には「心底愛してくれる娘が現れるまで怪物の姿のままでいる魔法」がかかっていたのでした。こうして二人は結婚し、盛大な結婚式が行われました。

 作者のS. T. アクサーコフは、当初、自身の記憶の中のロシア民話をもとにこの作品を書いたつもりでいたのですが、ボーモン夫人作の『美女と野獣』を翻案したオペラ「ゼミーラとアゾール」がロシアで上演されたとき、それがロシア民話風にアレンジされていたため、アクサーコフがロシア民話のひとつと誤解したと言う逸話が残っています。この例のように、ロシアの児童文学には現代にいたるまで、「他の物語の翻案に対して大らか」という特徴があります。

(文:小林 淳子)

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