NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『まいごになった子ねずみ』

Мышонок заблудился (1962)
N. パブロワ Н. Павлова (1897-1973)
(2021年3月号掲載)

まいごになった子ねずみ
まいごになった子ねずみ

 ある森で、子ねずみがママと暮らしておりました。タンポポの茎でつくった「輪っか」をママからもらった子ねずみは、夢中になって「輪っか」をころがしているうちに、気がつくと迷子になってしまいます。子ねずみは不安になって泣き出しますが、親切なカエルが「まっすぐ走ってイモリのところを左に曲がり、モンシロチョウがいたらもう一度左に曲がったところで大きな声でママを呼べば気づいてくれますよ」と道を教えてくれます。

 子ねずみは、カエルにお礼を言ってアネモネの咲く道を進もうとしますが、「輪っか」を上手にあつかうことができず手間どっているうちに、イモリもモンシロチョウも、どこかへ行ってしまいました。困っている子ねずみに、今度はミツバチが「すぐにここをかけ下りてネコノメソウの花を目印に山を登り、フキタンポポの花のところを右に曲がったら大きな声でママを呼んでごらんなさい」と道を教えてくれます。

 そうして迷子になるたびに動物たちに道を教えてもらうのですが、「輪っか」のせいでなかなか正しい道にたどり着けません。はたして子ねずみはママの元に帰れるのでしょうか―。

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 この『まいごの子ねずみ』は幼児向け絵本ですが、作者のN. パブロワは生物学者でもあります。ペトログラード大学物理・数学学部を卒業後、ネクラーソフ名称教育大学植物学講座、レニングラード大学植物地理学講座などで学術研究を行ったN. パブロワは、研究のかたわら児童書を執筆しました。この作品にも動植物に対する細やかな視点が活かされており、ネコノメソウ、フキタンポポなどの耳慣れない名前からは、ロシアの子どもたちが当たり前に目にしている豊かな自然への憧憬がかきたてられます。

 さて、物語のほうですが、最後には子ねずみがころがす「輪っか」はボロボロになって壊れてしまいます。やがて夕方になりフキタンポポの綿毛も閉じてしまい、またしても目印を失った子ねずみは大声で泣き出します。あまりにも大きな声で泣いたので、泣き声を聞きつけたママが走り寄ってきて、二匹は仲良く家へ帰ることができたのでした。

(文:小林 淳子)

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