NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 横浜ロシア語センター

『金のさかな(漁師と魚の話)』

Сказка о рыбаке и рыбке
A. S. プーシキン А. С. Пушкин (1799-1837)
(2020年8月号掲載)

『金のさかな(漁師と魚の話)』
『金のさかな(漁師と魚の話)』

 “ロシアの詩聖”A. S. プーシキンの童話をご紹介します。

 老漁師が投げた網に偶然かかった金の魚が「海に返してくれたら何でも望みをかなえてあげる」と言いますが、老人は「何もいらない」と言って魚を海に返します。その話を聞いた妻は怒って「せめて壊れた桶の修理でも頼めばよかったのに」と言います。そこで老人が頼んでみると金の魚は新しい桶をくれますが、妻はさらに怒り「桶なんかより新しい木造の家を頼めばよかった」と言います。その願いもかなうと「貴族の奥様になってお屋敷に住みたい」「女王になって御殿に住みたい」と段々と願い事がエスカレートします。金の魚は次々に願いをかなえてくれますが、「地上の女王ではなく海の女王になり、金の魚をしたがえたい」という妻の最後の願いに対しては、無言で海に返ってしまいます。老人が海から戻ってみると御殿は消えて、もとの土小屋に妻が座り込んでおり、その前にはこわれた桶が転がっていたのでした。

 この物語では、老漁師の無欲さがいかにもスラブ民族らしい「素朴な善良さ」を象徴しているのに対し、妻には「強欲さと権力」を象徴させています。そして、最終的には金の魚に見放され、もとの貧しい漁師の妻へと逆戻りするという結末は、シンプルでわかりやすいストーリーとなっています。

 A. S.プーシキンが書いた多くの作品のうち、児童文学として広く知られているのは本作品のほか『死せる王女と七人の騎士の話』『司祭と下男バルダ』『サルタン王の話』『金のにわとりの話』の計5作品です。これらはA. S. プーシキンがミハイロフスコエ村へ追放されていた際、乳母のアリーナ・ロジオーノヴナから聞いた口承文芸から題材を得て、もともとは一般読者向けに書かれたもので「創作民話」と称されます。やがて子どもたちに広く読まれるようになりました。テンポよく話が進み、複雑なエピソードや風景描写がなく、A. S. プーシキンの他の作品に見られる詩情よりも、民話らしさや口承文芸の伝統的なスタイルが優先した作品群だと言えます。

(文:小林 淳子)

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